キン、という高い音と共に剣が弾き飛ばされる。その衝撃に引きずられ、バランスを崩した勢いで、仰向けに地面に転がされた。 「いってー…」 尻がモロに受けた転倒の衝撃が、腰を伝って背筋にもビリビリと響いてくる。剣をしっかと握っていた手もかなり痛い。 「くっそ、またかよ…」 独りごちて、顔にまとわりつく埃を払うと、剣を目の前に突きつけてくる幼馴染を鋭い目つきで射竦めた。だが、挑発のつもりのその視線は、いつもと同じように、顎をすっと上げただけで、軽くかわされてしまった。受け手のいない挑発は、目の前の相手の肩の横を通り過ぎて、なんかどっかにぶつかって、本人のもとに帰ってきて…いや、本当にそんなことが起こっているのか分からないけど、なんだか結局のところ、余計にイライラさせられることになる。 今日は、これで10戦10敗。シャークは今日、土下座せんばかりの勢いで、とある相手に試合を申し込んだ。その相手とは、幼馴染のレイ・ライト。この村では最強の戦士と謳われ、数々の手柄を立てている。シャークだって実力は十分にある。だが、誕生日が三月ほど前のレイは、やはりその差の分行動が早いため、手柄は常にレイのものだ。例えばシャークが村を襲った盗賊のところに駆けつけたとすれば、もう既にレイが片付けた後だったりする。 そして、これが一番癪なのであるが、直接の試合では一度も勝ったことがない。いや、負けたなんて思ったことはない。多分向うだって本気じゃないから、シャークも本気になれないのだ。そうに違いない。 ずっと糸を張ったような努力を続けてきたんだ。かなり辛かったんだ。それなのに、名声も、実力も、向うの方が上なんて、そんなの認めない。 「お、おれは今日は本気じゃなかったんだからな!ちょっと鍛錬をサボってたんだ!俺が本気出したらおまえなんか一瞬で倒せるぞ!本当だ!」 悔し紛れに声を荒げると、レイは呆れたように眉を寄せている。 「一ヵ月後だ!絶対に強くなって倒してやるからな!!首洗って待ってろ!」 相手を突き刺すように、人指し指を真っ直ぐに伸ばす。決まった! 今のは完璧だった。レイもきっと、恐れおののいたに違いない。と思って、得意げにレイの顔を見やる。 …だが、反応がない。 振り上げた指が泣いて震えている。だが、無視されようがなんだろうが、強くなって、レイに.泣きを見せてやる、と心の中で誓う。 その時、不意にレイが顔を綻ばせた。 その表情にシャークの目が釘付けになる。まるで時間が引き延ばされたようなその口角が上がっていく刹那刹那の映像が、シャークの脳に刻まれる。多分、一生忘れようもない程くっきりと。 「ああ、楽しみにしている」 久々に見た幼馴染の微笑みは、シャークに初めての敗北感を味合わせた。なぜかは分からない。 もしかしたら、彼女は、一生とどかない人なのではないか、そう思わせるような、真実美しい笑みだったのだ。 (C)芝 |