ロマネスク・ロイドめがね 2

「どうぞ座ってください。…すみませんちらかってて」



二人は椅子に座ると、部屋の中を見回しました。

次「うわあ」
健「すごい…」


それはもう、眼鏡だらけ。
机の上に眼鏡。
壁にも眼鏡。
お兄さんも眼鏡。
棚の中にもきっと眼鏡がぎっしり詰まっているに違いありません。


健「何ですかこの大量の眼鏡は」
「私は眼鏡職人なんですよ。眼鏡を作って売るのが仕事なんです」

本当にそれで生活していけるのだろうか。ていうか、眼鏡ってそんなにたくさん必要なのか?
と健は思いましたが、次郎は素直に感動しています。何故感動するのか健にはよくわかりません。

健『でもそこが次郎のいいところなんだよな…』

健はちょっぴり微笑ましく思いました。


次「じゃあお兄さんの眼鏡も自分で作ったんですか?」
「はい、そうですよ」

にっこり笑うお兄さんは心なしか自慢げに見えます。

次「うわー、すげー!」
「ありがとうございます。
 あ、そういえば、ご飯でしたね。ちょっと待っててくださいね」

そういうとお兄さんは棚からパンを二つ持って来てくれました。

「これで良かったら、どうぞ食べてください」

餓死寸前だった二人にいいも悪いもありません。ありがたくいただいて、むさぼり食いました。



健「ありがとうございます…ほんとに助かりました。
 僕は鈴木健といいます。で、こっちが紺野次郎」
「スズキタ消し?」
健「え…あ、いえ、鈴木、健です」
「スズキ・タケシ…変わったお名前ですねえ。私は、アンリ・フェルナンドゥといいます」

健は眼鏡お兄さんの方がよっぽど変わった名前だと思いましたが、命の恩人にツッコミを入れるのも失礼なので、黙っていました。

次「えーと、ふ…増えるなんどうさん?」
「いえ、増えません」

笑顔で何気に素早くつっこむ眼鏡お兄さんアンリ。こいつ、できる…!と健は思ったとか思わなかったとか。


「アンリでかまいませんよ」
健「じゃあアンリさん。実は僕達、人探しをしてるんです。僕達と同じ様な紺色の制服を着てて、髪の毛を二つにくくってる女の子を見ませんでしたか?」
「さあ…ここのところ眼鏡作りに夢中で家から出なかったものですから…」
次「どこ行っちゃったんだろなあ、りな…」
健「そうだな…。すみませんアンリさん。他を当たってみます。どうもお世話になりました」


二人そろってぺこりと頭を下げると、眼鏡お兄さんはにこにこ笑って手を振りました。

「いえいえ、どういたしまして。それで、お二人とも行く当てはあるのですか?」

二人が困って顔を見合わせていると、

「無いんでしたら、私の住んでいる村に行ってみてはどうでしょう?ここからすぐ近くにありますから」
次「そうしようぜ健」

健がうなずくと、眼鏡お兄さんがちょっと待っててくださいね、と言って家の奥に入っていきました。
二人がしばらく待っていると、眼鏡お兄さんは少し大きめの袋を二つ持って帰ってきました。
「これをどうぞ」


次郎と健は、眼鏡お兄さんから食料と地図の入った袋をもらった!


「これならしばらくは食べ物に困らなくて大丈夫でしょう」
健「本当に何から何までお世話になりました」
「これも何かの縁ですよ。もし眼鏡が必要になった時は是非当店へお越し下さい」

親切なお兄さんで良かったなあ、と二人は感謝しながら眼鏡の館を出たのでした。





次「袋の中には何が入ってるんだろ」
健「食料と、これは、地図かな。この村でりなが見つからなかったら、次はどこに行くか考えないと…」

その時、袋の中をのぞきこんでいた次郎が声を上げました。

次「おい健、これ見てみろよ!」
健「どうしたんだ、次郎」

次郎が袋の中から取り出したのは、なんと眼鏡でした。

健「めがね…?」
次「二つ入ってるぞ」
健「僕達の分か…」


二人はそれぞれに眼鏡を握りしめて、どこか遠くを見つめながら、眼鏡お兄さんの眼鏡好きを思うのでした。



<END>


←BACK    ロマネスク・R TOP



(C)想架創